インプラント 看護師 派遣

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indexNovel > 掌編「あの日まであと何歩」
あの日まであと何歩
 変な奴だと思った。真剣に何かをやっている所は見たこと無くて、知っているのはへらへらしている所だけ。口を開けばそこから飛び出してくるのは皮肉か悪態、それじゃなければふざけた冗談ばかりで。
 まだ十になったばかりのガキなのに、すごく大人ぶっていて。
「ませたガキ」
 あたしがそう悪態をついたのは数え切れないほど。だけど今思えば、あいつと年齢はそう違わないあたしも充分『ませたガキ』だったわけで。
 あいつの友達もみんな『変な奴』だった。一癖も二癖もある奴ばかり。だけど、そんなあいつらの輪の中は飽きなくて、楽しくてしょうがなくて、心地よかった。気が付けば四六時中あいつらと一緒だった。
 ――あの頃までは。
「元気かなぁ……」
 ため息混じりに呟いて見上げた蒼い空を、小さな鳥の翼が横切っていく。
 あたしは田んぼばかりの見渡しのいい場所に横たわるちょっと幅広の砂利道を歩いていた。足元に転がる小石を蹴飛ばしてみる。
 あたしの背中を舐めるように積乱雲が立ち上り、頭上をちぎれ雲が軽快に流れていく。
 変わらない。この景色も、風も、音も全て。――いや、違うか。まだあの頃は風が冷たさを含んでいた。今日のような生暖かい風じゃなくて、心地よかった。田んぼの稲も今よりもう少し小さかったし、と手を後ろで組んで粗捜しをするように辺りを見渡した。
 やっぱあん時みたいに初夏じゃなくて真夏だし、ね。
 ちょっと苦笑して心持ちゆっくり進む。
「暑い……」
 こめかみを伝う汗を拳で乱暴にぬぐった。
 ――絶対だかんな。
 夕日に照らされて紅く染まったあいつの顔がふっと脳裏を掠めた。
 必死で涙を堪えて、笑った顔。あのときだけはいつものように大人びていなくて、年相当の子供の顔だった。
 あの日はいつもより早くから大きな桜の木下に集合して、日が暮れるまで笑って、転げまわった。いつもにましてどろどろになったけどそんなのは気にならなかった。ただただ誇らしかったのを覚えている。
 ――おう、絶対……絶対だな。
 そう呟やき頬を伝った涙を無視して、あたしも笑った。あいつらと手を重ね合わせて、暑いのに肩を寄せ合った。
 『さよなら』は言わなかった。また会えると信じていたから。
 あの時交わした約束は、あたしの胸の奥でまだ僅かに疼いている。あたしの大切な一部分。
「何年経っても――思い出を辿ればあの頃のあたし達に戻れるよね……」
 らしくもなく思い出に浸って、静かに笑った。それは自嘲とも苦笑ともつかない曖昧な笑い。
 笑っているのに涙が頬を伝った。
「あいつらには見せれないな」
 大雑把に涙をぬぐって、これ以上涙が零れ落ちないように空を見上げた。相変わらず空は青い。
「あのませたガキ、少しは大きくなってるかな」
 ――あの場所まであと少し。きっとあそこだけは変わっていないのだろう。

 風が髪を乱して駆け抜けていった。


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